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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)106号 判決 1954年1月28日

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に移送する。

理由

原判決は、「本件売買成立当時控訴人(被上告人)先代は福井市の所有家屋に居住して本件家屋を必要とせざりし為、これを尾崎弥三右エ門に売却の約定をなしたるも、前記戦災の為本件家屋を居住上必要とするに至りたることを認め得べき」ことをもつて、事情変更による解除権発生の主たる事由としている。しかし、単に戦災によつて居住家屋を焼失したというだけでは、事情変更による解除権の発生を認めるには足りない。そればかりではなく、本件売買の成立した昭和一九年一一月二一日当時の戦勢から見て、福井市のごとき都市における家屋が空襲を受け焼失することもあり得べきことは、予見し又は予見し得べかりし事情の変更ではなかつたか。少くとも他の都市では戦災焼失をおそれ又は予見して、家屋が売買された例は少くはない。

さらにまた、原判決は、昭和二〇年七月一九日事情変更による解除権が被上告人先代に発生した事実、解除は昭和二一年三月頃なされた事実、訴外尾崎弥三右エ門は昭和二〇年一一月五日本件家屋の買主たる権利を上告人に譲渡した事実を認定した。そして、原判決は事情変更による解除権発生の一事由として、「これに反し尾崎三右エ門は自己居住の目的を以て本件家屋を買受けたるも間もなく之を不用とするに至り遂に被控訴人(上告人)にその権利を譲渡したものであること」を挙げている。しかし、かように事情変更による解除権発生後の事実を捉え、これを一事由として、事情変更による解除権発生を認めることは理論上許されないものと言わなければならぬ。なぜならば、事情変更による解除権の発生は、その発生までに生じた事情の変更のみが斟酌されるのが当然だからである。以上述ぶるところによつて、原判決には事情変更の原則の法理を誤つた理由不備の違法があるか、又は審理不尽の違法があるといわねばならぬ。それ故、本件上告は結局理由があるので、その余の各論旨につき一々判断するまでもなく、原判決を破棄するを相当とする。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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